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管理規約という名の壁

少し前のこと。公園で犬同士が仲良くなり、顔馴染みになった方が引越されていった。お住まいのマンションで犬の飼育をよく思わない方々との軋轢に嫌気がさしたのだという。その方は散歩の時でも当たりに気を配り、私など足元にも及ばないほどの理想的な飼い主であったにもかかわらず、だ。この時、犬と社会の関係にいささかの前進も見られない現実に愕然とした。ベリーを飼い始めた平成6年の秋に読んだ新聞記事に、我が国犬事情の変化の光明を見出したこととのギャップがあったからだ。

その記事とは、東京都衛生局と分譲マンション管理組合団体「京滋マンション管理対策協議会」が、マンションなど集合住宅でのペット飼育に関し、ガイドラインを作成したというものである。一律禁止の現状から飼育を認める基準が示されたことで、漸く日本も、の観を強くしたものだった。

そう感じたのには訳がある。同年8月、犬とマンションを考える上で忘れられない裁判の決着を見ていたからだ。横浜ペット裁判である。これは、横浜市緑区の「藤が丘ハイツ」管理組合が、住人である会社役員を相手取り、ペットの飼育を禁じた管理規約をたてに犬の飼育をやめるよう求めた裁判。控訴審判決は、一審同様、管理規約は有効であり、それに反して犬を飼うことは「共同の利益に反する行為」とし、棄却された。9年間の長きにわたったこの裁判は、分譲マンションでの犬の飼育の難しさを再認識させ、その理由とした管理規約なるものの理不尽さを浮き彫りにした。そんな記事に接した後に、自治体と住民団体の双方からガイドラインが出されたので、より一層の変化を期待したわけである。それがこの有り様。

そもそも分譲マンションとは各戸に所有者がいるという私有性と、建物の共用部分は全区分所有者で管理するという共有性との二面性を持つ。そのために管理ならびに運営のルールなる基準を設けているわけで、それが管理規約であり、区分所有者の中から選ばれた理事たちで構成される管理組合によって住民集会が招集され、決定される仕組みとなっている。マンションとは言うなれば、住民自治の最小単位なのである。

しかし、実際にマンションで暮らそうと思っている人は、煩わしい近所付き合いが薄弱だという点に魅力を感じていることが多く、”私”の部分に重点を置く。こうした意識の齟齬があり、現実にはマンションデベロッパーが用意した管理サービスを何の疑いもなくそのまま利用し、規約に関してもその管理サービスに都合がいいとのことから業者が用意した雛形を多少アレンジして採用している例が多いという。管理し易いという点に重点を置けば、出来るだけ波風がたたないような共通ルールが作られるのは自然であり、ことペットの飼育に関しては管理面での労力ならびに明確に飼育を反対する者もいることから、いとも簡単にペット飼育禁止条項が管理規約に入れられてしまうわけである。管理サービスを提供する業者が悪いのではなく、共有性の煩わしさを嫌う区分所有者一人一人の意識こそ諸悪の根元なのである。住民自治の最小単位であるという意識さえ各人にあれば、住民の幸福の本質を追求しようとの姿勢が見えてくるはずだ。

ペットを飼う側も同時に問われる。マンション生活におけるトラブルで圧倒的に多いのが、居住者の行為・マナーをめぐるもので、中でも「音」「ペット」「駐車場」が三大トラブルといわれている。残念ながらこの中に「ペット」が入っており、とりわけ、うるさい、くさい、汚いがその理由だ。こうしたトラブルの発生を無くすのは、飼い主側の姿勢如何である。

分譲マンションにおいては如何に理不尽であれ、管理規約が重視されることは間違いない。区分所有法によれば、管理規約の変更は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする、とある。この多数を形成するのは容易なことではない。従って、この問題をマンション住民だけで解決することは現実的ではなく、良くも悪くも日本の犬事情、日本の社会の縮図そのものであるとの認識に立ち、全飼い主の問題として捉えなくてはいけないのではないかとの観を強くする。

1999-02-12


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