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バイブル

ベリーを飼い始めて5年目、漸くベリーという個体をある程度まで理解できるようになってきた。ある程度、と記したのは、自分の飼い犬とはいえ、完璧に理解することなど出来るはずがないと思っているからである。いや、ある程度すらも疑わしい。理解したと勝手に思い込んでいるだけなのかもしれない。仮に、ベリーという個体のことを相当程度理解出来たとしても、そのことでその犬種全体の理解に結びつくかというと甚だ疑問であり、ましてや犬全体のことを普遍的に述べることなど、どだい無理なことだからだ。その理由は明白である。犬の生態を観察するサンプル数が 1 では話にならず、従って一介の飼い主には荷が重すぎるテーマだからだ。よく、しつけ方から始まり、犬の飼い方全般を披露している飼い主のドッグサイトを目にするが、それはそれですごいことだと思う。私には、経験談は語れても、そういった「べき論」を人様に語ることなど出来ようはずがない。

こんなあやふやな飼い主であるから、参考書なるものを活用する。ベリーを飼うまでに数十冊という犬関連の書物を読み漁った。しつけ、病気、食事といった飼い主の三大関心事はもちろん、周辺まで含め、相当な知識を手に入れることが出来たと思っている。いや、思っていたと記した方が正解かもしれない。というのは、実際に犬を飼ってみると、数々の細かな疑問が生じてきて、その都度、書物の中から答えを見出そうともがいてきたからである。しかるに、その疑問に対する明快な答えを提供する書物の数は、残念ながら多いとは言えない。あまり役には立たなかった書物に共通していえることは、著者の視点と一般的な飼い主の視点が乖離しているということである。

著者の中には、仕事で犬を扱う方々が多い。しかし、その仕事を通した視点というものは、一般的な飼い主の視点とは違う。例えばブリーダーなら、血統やスタンダードといった括りでの知識は豊富であろう。獣医なら病気、訓練士ならしつけの専門家である。プロであるがゆえの豊富な知識に基づいた視点は、時に飼い主に高邁な姿勢を要求する。こうあるべきとの理想論で終始しているから、その著者と同様の労力、時間を割けない一般の飼い主にはついていけない場合が多々あるのである。逆の見方をすれば、自分の専門領域以外の知識と経験の浅薄さゆえという面もあるのではないだろうか。安易な理想論を書き綴っていけば、少なくとも問題は生じないからである。つまりは書き手の問題、なのである。

究極の参考書とはどういうものであるべきか。視点が明確に飼い主に合わせられており、著者自身が飼い主のベテランであり、かつ飼育したサンプル数が膨大で、犬に関する広範囲かつ高度な専門性を有し、読み手に過度の要求を行わない、そういった書物こそ、まさに飼い主にとっての「バイブル」と呼べるべき存在であろう。私にとっての「バイブル」、それが、故平岩米吉氏の二冊の本である。

私の手元にあるその二冊の本とは、、昭和47年に出た「犬を飼う知恵」第21版(池田書店)と昭和51年に発行された「犬の行動と心理」改訂3版(築地書館)である。両著は、私自身大変に参考になった、いや現在も折りに触れ参考にしている、文字通りの「バイブル」である。

著者は、四十年以上の長きにわたり、六十余頭の犬を飼育し、観察し、研究した犬科動物研究の第一人者で、上記の著作以外にも犬ならびに犬科動物の著作物が多数あり、また、著作活動以外の啓蒙活動も活発に行なってきた方である。両著とも上梓されて四半世紀が経過しているというのに内容に古臭さを感じさせることはない。それは、内容自体が、犬の本質を、鋭い観察眼を通して読者に提供する一点に集中されているからに他ならない。全ては氏の飼育・繁殖の体験に基づいているので、一般の飼い主の視点から逸脱することもない。我が国動物文学の開発者でもあることから、読み物としても一級品である。造詣の深さは言うに及ばない。

名著に巡り合えたことは幸せである。皆さんは、いったいどういう「バイブル」を手にしているのだろうか。

1999-02-26


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